プロジェクト発足。主力の検知機とは販路が違う商品をどう売るか?
熱量計は大手の都市ガス会社や電力会社がお客様です。都市ガスの原料となる天然ガスは産出地によって熱量が違いますが、日本の都市ガスは規格によって含まれる熱量が決まっています。そのためガス会社では必要に応じて成分を調整し、規定の熱量に整えて送り出しています。そこで熱量計が必要なのです。またガスを主燃料とする火力発電所でも効率的に発電するために熱量計が使われています。工場などで使われるガス検知機やガス警報器とはお客様も使われる場所も違うのです。
熱量計であるOHC-800の海外展開を進めるためのプロジェクトチームは2019年秋に発足、活動を開始しました。メンバーの反応はどうだったのでしょうか?
T.I.
国内展開の時も、こうしたプロジェクトが発足されたのですが、今回さらにメンバーを増強して、海外展開へ挑むことになりました。OHC-800では開発当初から海外展開を想定した設計を心掛けていたので、いよいよという感はありました。
海外営業部では、各国の販売代理店を通して製品をお客様に提供しています。
しかし熱量計の場合、ガス検知器とは売り先も使われ方も異なるため、販売が容易ではないんですね。ですから既存の代理店に売ってもらうのはなかなか難しいだろうな、というのが私の第一印象でした。
R.M.
S.I.
私はすでに中国の関連会社に出向して中国への製品展開を担当していました。中国でも代理店を通して販売するのは同じですが、代理店の中に以前の製品から10年以上地道に熱量計の販売を続けている方がいまして、ようやくその努力が花開くなと思いました。
旺盛な中国の需要と、製鉄所という新しい市場次々に見えてくる世界のニーズ
S.I.の言葉にあるように、OHC-800の海外展開に関しては中国市場が一歩先んじていました。
S.I.は「中国のエネルギー需要の旺盛さと、それに対応したインフラ整備の速さはものすごくて、10年前には形もなかったような天然ガスのパイプラインが、今や中国全土に巡らされています。沿岸部には備蓄基地もできていますが、それでもまだ足りないんです」と語ります。中国を始めとした熱量計を巡る世界のニーズに目を向けてみましょう。
T.I.
そもそも液化天然ガスを積極的に使い、そのガスの熱量までしっかり管理してきたのは、昔は日本ぐらいのものでした。ところが今や液化天然ガスは世界中で使われるようになりました。特に中国は確保しても確保してもエネルギーが足りない状態です。燃えればいい時代から、あっという間に、日本と同じように無駄な燃料を減らすとか、効率のいい燃焼を追求するといった時代に変ってきています。つまりそれだけ熱量計が必要とされるんです。
他に鉄鋼関係の需要もありますね。製鉄所では鉄を作る段階でガスが出ます。燃えるガスなので製鉄所内部の工程で燃料として使うんです。そこで熱量計の出番がある。実は日本国内でも製鉄所への売り込みを図ったのですが、日本の鉄鋼会社はなかなか新しい技術への切り替えに踏み切ってもらえない。ところが中国では、お客様も新しい技術にどん欲で、すぐテストさせていただける。評価も上々で今後は鉄鋼関係も売り込みの柱の一つになりそうです。
S.I.
T.I.
鉄を作る段階で発生する副生ガスの組成が分かると、製鉄の製造工程の管理上いろいろ有利とのことで、組成を分析する機能も追加しました。元々オプトソニック熱量計というのは都市ガスや天然ガス由来のガスの熱量を測るのが主目的なんですけど、品質管理などにも使えると分かった。こんな風に、販売開始してから5年経って、どんどん新しい市場が見つかり、機能も追加されているんです。
また欧州ではPower to Gas(※ページ最後にて解説)という考え方が進んでいます。風力発電や太陽光発電は、クリーンなエネルギーですが発電量にムラがあり無駄になってしまう電気がある。そこで余った電気で水素やメタンを作って、Power to Gas、電気のエネルギーでガスをつくり備蓄するという考え方が広がりつつあります。この作ったガスを天然ガスのパイプラインに足して、エネルギーを無駄なく使いましょうということですね。
ただ天然ガスには本来水素は入っていないので、世の中にある熱量計は、ガスに水素が含まれていない前提で設計されています。だから水素が入っていると測れない。OHC-800ならそのような条件下でも正確に測れるという強みがあります。幅広いガスをカバーできるので、いま非常に有利なんですね。
R.M.
プロジェクトは始動したばかり。現在の課題と目標は?
「海外営業部は今まで地域で担当が分かれていましたが、今回は製品で担当することになりました。OHC-800は、中国を除く全世界を私が担当しています。そういうスタイルは今回が初めてでした」と話すのは海外営業のR.M.。プロジェクトの営業側の中核となっています。目標などを話してもらいました。
R.M.
代理店に関しては対策が2つあります。既存の代理店で販売に興味を持ってくれたところへの教育と、熱量計の販売に強い新しい代理店の開拓です。反応は代理店や国によってそれぞれですが、4月からいっせいに販売活動の第一段階をスタートできるよう準備中です。
市場規模で言うとアメリカが一番大きいのですが、代理店の開拓から始めなければならないので、こちらは長期目標です。中国はすでに販売実績がありますので、次は鉄鋼市場に対して売り込みをかけ年内に実績を出したいと考えています。
すでに中国では他の地域に先駆けて昨年からガス会社に販売を行い一定の実績を上げています。今年2020年度は、コロナで色々大変ですが、2倍の実績を目標に掲げて進めています。
S.I.
T.I.
検知原理など製品の基本部分はほとんど手直し無しですすめられるので、そこから先は国ごとに求められる法的な要求への対応、たとえば外部からデータを改ざんできないようにするなどの作業が出てくると思います。
技術の人間として、この製品の売り込みにおいて何が一番難しいかというと、購入を検討されるお客様は、かなり技術的にも詳しい方が検討されるので、やりとりがだいぶ深い話になることです。海外では専門的な知識だけでなく、それを表現する語学力も必要ですので…。今は会社の支援制度があるのでこれを利用しつつ、毎朝英会話のトレーニングを受けています。
世の中に役立つ製品を、自分達の手で生み出し広める。それが使命。
世界各国の市場を相手に、これから何年も続くであろうこのプロジェクト。それぞれの仕事のやりがいは、どこにあるのでしょうか。
T.I.
私はお客様が困っているのを自分の技術で解決できるところに面白さを感じます。いろいろな現場に足を運ぶ機会に恵まれ、そこから多くを学ばせていただいて、そのおかげで製品の精度や技術もどんどん向上しています。学べば学ぶほど自分達の技術が世の中に役に立てられるという自信につながっていきます。
でもその技術は、持っているだけではダメで、こうしたプロジェクトを通して自分達で広げる活動をしなければ世の中に役立つことはない。いい技術を生み出したら、それを世に広げることも使命でもあると私は思っています。
この熱量計のプロジェクトということで言うと、ガス検知器とは違って、インフラに関わっていることですね。エネルギーというのは国の根幹に関わることですから話の規模も大きくなるし、そこで貢献できるのはとてもおもしろい。違う分野の知識も、どんどん覚えていかないといけないのですが、私は新しいことをやるのが好きなので、この仕事は当分楽しめそうだと感じています。
R.M.
S.I.
お客様のためになるいい商品をどんどん販売できるところですね。この写真はとある中国のお客様が使っていた熱量計と当社のOHC-800の比較です。これまではガスの前処理なども必要で、こんな小屋みたいな装置が必要だったんです。我々ならこの小さな機械で済む。導入コストは1/4以下、ランニングコストなら1/10以下に抑えられて、とにかくお客様には非常に喜ばれる製品です。そういうものを販売できるのは非常に楽しいくやりがいのあるところですね。
世界の頂点への道は舗装されていない悪路。それでも一緒にそこを目指そう。
最後に学生の皆さんへのメッセージをお願いしました。
S.I.
日本のものづくり、しぼんでいる印象もあるかもしれませんが、そんなことはない。世界に勝てる製品がまだこういう形であるということを知ってもらいたいですね。
学生の皆さんは理研計器って、たぶん聞いたことが無いと思います。僕も知らなかったです。でも入ってみると、実はガスや発電など自分達の生活の基盤に関わっている。そうした生活に欠かせないところで役に立てるのが面白い部分です。こうしたインフラへの貢献をさらに世界に広げていくこの仕事の面白さをぜひ感じてもらいたいですね。
R.M.
T.I.
仕事では学んだ分だけ誰かの役に立つことができます。そしてそれは想像以上に、世の中の役に立っているんです。世の中には沢山の仕事がありますが、どんな仕事でもどんな分野でも真剣に取り組めば、たいていの仕事は面白いと自分は考えています。でもそれを私達と一緒にやってもらえたらうれしいです。
私達は本気で世界制覇、世界のトップを目指しています。世界の頂点につづく道は、舗装されていない悪路です。この悪路をお互いに支え合いながら、一緒に勉強して、共に頂点を目指しましょう。
※Power to Gasとは
欧州ではクリーンエネルギーとして風力発電や太陽光発電が盛んにおこなわれているため、余剰電力が発生している。電気の貯蓄は技術的にも難しくコスト面でも効率が悪いため、余剰電力で水を電気分解し、水素ガスとして貯蔵する方法がとられている。その水素を直接天然ガスのパイプラインに流し込む方法と、H2+CO2で天然ガスの主成分であるメタンを人工的に作りだす方法がある。